おどりのば 講評会ゲストによる選評

千代田芸術祭2011で、今年から新たに3331施設内の魅力を生かした新しい企画として開催されたステージ部門「おどりのば」。各回のゲスト審査員によるスカラシップ選評を掲載します。「おどりのば」は3331 にとっても初めての企画ではありましたが、コンテンポラリーダンス、舞踏、即興、パフォーマンスなど、多岐に渡るジャンルの作品が演じられました。スカラシップ受賞者のみなさんには、2012年9月末までの期間中、3ヶ月間連続して2F体育館を稽古場として開放いたします。

<講評会実施日>
2011年9月4日(日) 13:00~16:00
ゲスト審査員/小崎哲哉さん、柴幸男さん

2011年9月17日(土) 13:00~17:00
ゲスト審査員/TAKASHI J/Bさん、伊藤千枝さん

2011年9月18日(日) 13:00~17:00
ゲスト審査員/池宮中夫さん、中村茜さん

小崎哲哉&柴幸男 賞:●▲■「school complex」

小崎哲哉&柴幸男 賞:●▲■「school complex」



小崎哲哉&柴幸男 賞:吉村和顕「ハウス!」

小崎哲哉&柴幸男 賞:吉村和顕「ハウス!」


小崎哲哉

選評:小崎哲哉(REALTOKYO発行人兼編集長)
審査とは玉石が混淆する中から玉を選ぶ作業だが、たいていは石ばかりで、終わると疲労困憊するのが常である。ところが今回は玉が多く、観ている間も選び終わった後にも、何かしらの達成感に似た爽やかな気持ちが残った。もちろん石もあったけれど、それは原石と呼ぶべきもので、磨いてゆけば玉になり得る。翡翠やダイヤモンドになれば素晴らしいが、ガラス玉だってかまわない。ただし、ほかの玉とは異なる個性的な光を放ってほしい。ダンスに限らずあらゆる表現行為は、単調平板な世の中に乱反射をもたらすことに存在意義があるのだから。


柴幸男

選評:柴幸男(作家、演出家、ままごと主宰)
こんなにうれしい誤算はありません。作品は本当にどれも面白く、はじまる前の不安はすぐに驚きと喜びになりました。コメントに困ることもなく、どの作品も、もっと長く語りたい、どこが良いのか、どうしたらより良くなるのか、稽古場にいるみたいに、もっと関わり合いたいと思わせてくれる作品が多かったです。無料で観ていることを申し訳なく思うものもいっぱいで。吉村和顕さんはそれら「上手い」作品の中で、構成、技巧、ユーモア、完成度がダントツだと思いました。もう一組の●▲■さんは、逆に、もっとも可能性を感じさせてくれました。今回、気になった方々の公演があれば、ぜひ劇場で拝見したいと思っています。楽しい時間をありがとうございました。



伊藤千枝 賞:玉邑浩二「雨」

伊藤千枝 賞:玉邑浩二「雨」

伊藤千枝

選評:伊藤千枝(振付家・演出家・ダンサー・珍しいキノコ舞踊団主宰)
丁寧でとても素直ないいダンスでした。自分の内側で起きていることを確かめながら、少しずつ動きが始まっていく様子が気持ち良く、玉邑さん独特の時間と空気をいただきました。ありがとうございました。もっとダイナミックに自分の外に向かって表現できると絶対にいいと私は思うので、広い体育館で踊りまくって鍛えてください。”始まり”と”終わり”と”目線”にも気をつけて、そして”素直”であり続けてください。3年後の玉邑さんダンス、すごく観たいです。



TAKASHI J/B 賞:ほいのとヒヤマ「ピキニッコ」

TAKASHI J/B 賞:ほいのとヒヤマ「ピキニッコ」

TAKASHI J/B

選評:TAKASHI J/B(BBOY ブレイクダンサー)
今回、自分の見てきたストリートダンスとはルールの違う世界の踊りや動き、身体表現作品をみて、思った事がたくさんありました。正直表現幅の広さに戸惑いました。音楽をそこまで重視しなかったり、声の表現を重視したり、モノを多用した表現もある。人それぞれの表現方法で作品を発表するので、踊りというか身体をつかった表現ならなんでもありで、見ているだけで思考の身体具現化の異種格闘技戦を戦っているような気分でした。僕がスカラシップに選んだのは、ほいのとヒヤマさんで、作品はインパクトがとても強かったです。言葉の意味はわからないようなすごく気になる声で、2人はなにかコミュニケーションをとるように動くんです。そしてその動きと表情などがまた凄く奇妙した。意味が分からないんです。宇宙人の会話みたいだなって思ったり、でもとても気になるんです。僕はあるタイミングで笑いがとまらなくなりました。なにか感情が大きく動かされる瞬間がパワーがそこにはありました。今回皆さんの表現はとても刺激になりました。ありがとうございました。



池宮中夫 賞:李真由子「フカイ…」

池宮中夫 賞:李真由子「フカイ…」

池宮中夫

選評:池宮中夫(舞踊家、Dance Company Nomade~s 演出・美術・振付)
“意義のあったおどり場、意外性を持つ李真由子”彼女のダンス『フカイ…』は、眼で追っていったら背後を向かされ、立たされ見切れた。そして、瞳は外のガラス越しから我々に送られ程なく止めたのだ。劇場で例えるなら、上手前舞台から飛び降り客席を縫い駆け抜け、ロビーへ、入り口から外へ走り出て、踊るハプニングと云えるだろう。しかし、見終わった時、作品前半、下手で反時計回りに覗いた深い穴が重なる。確かに穴の淵で両足を爪先立たせた。暗闇でしか無い不可視の出自を身体的眼差しで捉えた一瞬だったに違いない。何故なら、作品後半は前半と打って変わったからだ。彼女の表情は曇り、穴と同じ場所で崩れ倒れ苦悶さえ浮かべていたのだ。タイトルを片仮名に決断させた、現在の不快なアイデンティティーが、期待感と将来性を抱かせた。彼女のダンスはーコノ社会ーに必要だ。



中村茜 賞:パンクヴィレッヂ物件「ハワイは東京ではない」

中村茜 賞:パンクヴィレッヂ物件「ハワイは東京ではない」

中村茜

選評:中村茜(PRECOG代表/NPO法人ドリフターズ・インターナショナル理事)
私は今回、“パフォーマンス”という表現をどう探求するのか、ということがより明確な上演を選出しました。「パンクヴィレッヂ物件」は、生演奏のコントラバスとドラムと3名のダンサーによるパフォーマンスで、ダンサーひとりひとりも楽器のように参加するジャズバンドのように見えました。この音楽とダンスという極上のコンビネーションからどんな新しいグルーブが生まれ、観客と一緒にどんな世界へ連れて行ってくれるのか期待します。さらに、自分の世界に閉じこもらずに、パフォーマンスが目の前のオーディンエンス、さらには社会、世界と接続していく可能性を感じさせること、既成の価値観、既存の表現スタイルに寄った創作ではなく、作品を構成する異ジャンルの表現に意識的に、新しい領域を模索していると感じられたことが、彼らの将来を期待させました。

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