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3331アンデパンダン 講評会ゲストによる選評

展示部門「3331アンデパンダン」の実施は今年で4回目となります。今年は約200組の応募作品を展示させていただきました。今回の受賞作品の選評を掲載いたします。
2014年1月25日(土)(予定)からは、ゲストにより選出された8組とオーディエンス賞を受賞した1組、さらに映像部門の受賞者2組の計11組のスカラシップ受賞者が、3331 のメインギャラリーにて展覧会を行います。

<講評会実施日>
2013年10月5日(土) 13:00~18:00
ゲストA組/遠藤水城さん、小池一子さん
ゲストB組/小沢 剛さん、松本綾子さん

2013年10月6日(日) 13:00~18:00
ゲストA組/伊藤 悠さん、和多利浩一さん
ゲストB組/豊嶋康子さん、ナカムラクニオさん

遠藤水城 賞:加瀬才子 Saiko T. Kase 「Life-time Project」

選評:遠藤水城(インディペンデント・キュレーター)
今回全体を見て感じた問題(それは広く社会一般の問題と重なっているのだけれども)は、みな安易なコミュニケーションを求めすぎている、という点。実際の コミュニケーションの要素を含んだ作品のみを言っているのではない。より問題なのは「こういう風にわかるように作ってあるんだから、わかってもらえますよ ね」という考えを作品成立の基軸に置いてしまっているもの。意味と欲望と貨幣の打算的交換の外にしかアートはない、と信じることから始めてほしい。
加瀬の作品は、自己の無価値化と価値化の両義性および計算され得ない時間性の導入においてこの問題を回避している。グッジョブ。今後の展開が心配だが頑張ってほしい。

加瀬才子[かせ・さいこ]
シカゴ美術館付属美術大学大学院(SAIC)から全額奨学金を支給され、2011年修士号(MFA)取得。主な受賞に「MacDowell Colony Fellowship」(2013)、「BEPPU ART AWARD」グランプリ(2012)、「 Vermont Studio Center Fellowship」(2012)など。現在トーキョーワンダーサイト青山:クリエーター・イン・レジデンスに滞在中。
http://saikokase.com

小池一子 賞:森岡真実 「stairs」

選評:小池一子(佐賀町アーカイブ代表)
観察の眼力ということを思わせる作家がいる。森岡さんのステアはフラットで、会場の壁面に直に描かれているだけなのだが、2色の割り切り方とあいまって観る人に謎をかける。これは何なのだ?という現代美術の第一条件のような問いがそこにあって私は興味をそそられた。ポートフォリオを見るなり、分かった。キャンパスの木陰を捉え空間をシフトする体験、出品作になった階段の位置と光の凝視。この眼力、空間の把握力ともいえるその力があればこそフラットに落としこめるのだ。
都市環境の変化はかつて60年代のアメリカに現代美術の巨大な平面を作らせた。これからの新しい美術作家が現在のアーキテクチャーや、災害を含む自然環境の中でどんな作品を生み出すかと思うとわくわくするが、そのような期待を抱かせる一人が登場したと思う。

森岡真実[もりおか・まみ]
1994年千葉県生まれ。武蔵野美術大学油絵科在学中。作品はインスタレーションや空間を意識したものが多い。

小沢 剛 賞:該当なし

総評:小沢 剛(美術家)
所狭しと、会場に展示された多数の作品から発せられるエネルギーは圧倒的なものでした。ただ、そのエネルギーの渦の中でひときわ輝くことは容易ではなかったと思いました。おそらく出品者達はそんなことは百も承知で挑んで来たのでしょう。
もし、アートが己の生きる姿勢を社会に表明する装置だとしよう。どうだろう?今の制作する意識は、もっとシリアスに?もっと軽やかに?もっと思慮深く?もっと透明に?するべきか?次回あなたが、もっと輝く為に、より自問自答しながら作品に向かい合って下さい。
今回は、とてもエキサイティングな時間を過ごせました。ありがとうございました。

松本綾子 賞:奥村直樹 「あれ奥村か」

選評:松本綾子(nap gallery director)
床にペラッと おいてあるだけなのに忘れられない作品となりました。痛い事も、笑われる事も、苦しい事も、賞賛も何も感じないバーチャルな自分を、他者と一緒に俯瞰するというシニカルな表現がとても気に入りました。「自分」をテーマにした奥村さんの表現は、自身の身体を利用しません。私は身体を使う表現が好きなので、ダンスやパフォーマンスを良く鑑賞します。表現者の研ぎすまされた身体の美しさや哲学に感動し、改めて、ニンゲンの奥深さや美しさを考えさせられるからです。しかしながら奥村さんの作品には、同じ「自己表現」であるのにも関わらずそのような努力と根性の痕跡は見られません。その上、自分を「ゴミ」と非難している割には、自己愛に陶酔しきっているとさえ感じました。あっけらかんと自己愛に満ちた自分自身を露呈し、潔く自己表現をする世代が到来したのだと思いました。新しい、身体の使い方がとても楽しみです。この「自己愛」をもっと研ぎすまし、奥村さんの哲学にまで昇華して欲しいと思います。

奥村直樹[おくむら・なおき]
1989年岐阜県生まれ。多摩美術大学美術学部工芸学科卒業。そこらにある人間のようなものを見つめてます。現在、馬喰横山の三階建一軒家でオルタナティブスペース「IDO」の準備中。今年度オープン予定。
http://ki4four.wix.com/okumura

伊藤 悠 賞:森脇ひとみ 「森脇ひとみの人形劇の道具」

選評:伊藤 悠(island JAPAN株式会社 代表)
いつもは、展示をぐるっとまわって、おもしろそうなものに、ひかれるものに近づいて行くという廻り方をしていたので、今回の審査は、一人一人の思いをきくことができ、とても多くを学びました。一作品で全てを知る事はできないので、最初はすぐに反応できなくて、もどかしく、それも修行になりました。お話を伺いながら思ったのは、何かと何かを同時にしようとしてることが多いという事です。でも、一つの作品で込められるものは、そう多くはない。自分が本当に伝えたい事は、大切にしていることは何なのか、それが一つに集約されて行くと、自ずと強い、あるいは唯一無二の作品となっていくのではないかと思いました。それは何も作品に限った事ではなく、日常でもそうかもしれません。
何人かお話をうかがった中で、森脇ひとみさんは、逆にとても不器用で、だからこそ、その人しかできない言葉を発し、ものをつくり、創作をしているように思いました。世界観もはっきりしてる。その人でしかないものがでていました。ぜひ、ひとみさんには、ひとみワールドを、つきすすんでいただきたい。人形劇のための道具を展示していましたが、私はぜひ、その人形劇が動き、世界をつくっていく様をみてみたいです。

森脇ひとみ[もりわき・ひとみ]
1986年福岡生まれ。2011年頃より弾き語りや人形劇のパフォーマンスを始める。またバンド「その他の短編ズ」としても活動中。音楽活動と並行して絵画やオブジェなどの作品も制作している。
http://d.hatena.ne.jp/hitomi860612/

和多利浩一 賞:原口比奈子 「線の可能性」

選評:和多利浩一(ワタリウム美術館 CEO/キュレイター)
今回私が選んだのは、原口比奈子の「線の可能性」です。講評会の対象作品ではなかったので、直接アーティスト自身には会って話すことができなかったのですが、何かずっと気になる作品として頭の中に引っかかりました。小さめの板に鉛筆で描かれたドローイング作品ですが、そこにはさまざまなエレメントが散らばっていて、海の中を覗いて、小さな魚、大きな魚、深海魚、プランクトンまでいるような錯覚に陥りました。単純にもっと大きな面で作品を見たい。というのが選んだ理由です。
大海を見せてくれるのか、リアルサイズの池にとどまるかは原口さん次第ですね。楽しみにしてます。

原口比奈子[はらぐち・ひなこ]
1974年東京都生まれ埼玉県育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業(評論演習所属)。2001年アトリエ木の日設立。おもな受賞に月光荘ムーンライト展入選(2008、2010、2011)など。「即興」をテーマに制作。「カフカのように断片を、モロイのようにはてしなく描きたい」
http://hinakoharaguchi.com

豊嶋康子 賞:渡瀬愼也 「layer/rule」

選評:豊嶋康子(美術家)
作品一つを観ただけですぐに愛着が湧く場合と、アーティストのこれまで作品全体を俯瞰したうえでじわりと共感を覚える場合がある。例えば前池有香さんの長文タイトルのミニマルな表現、土屋克也さんのキャンバス支持体の写真を紐で縛ったような出品作品は、作品資料でインスタレーションの様子を参照しその良さを把握した。それぞれ自信を持って突き進んで欲しい内容である。
作品が近距離に隣接する会場で、1出品作で表現し尽くすことは難しい。そんな条件のもと、作品の成立構造自体を剥き出しにした渡瀬慎也さんの方法がこの限定された展示空間の不自由さを逆手にとり存在感を放っていた。タイトルはこの画面の状態そのもので「layer/rule」である。自身で決断した規則遂行の痕跡であった。 プログラマーとしての作者とプレイヤーとしての作者を分節化するのは特殊なアプローチではないが、 このアーティストの固有の手作業の緻密さ/おおらかさがコンセプトに厚みを加え、また風穴を開けている。自身に課したルールの下でも自縄自縛に陥ることなく手元から見詰め直し続けるであろう姿勢の強さを感じた。この機会をバネに自らの方法へとさらに踏み込んで欲しい。

渡瀬愼也[わたせ・しんや]
1980年佐賀県生まれ。筑波大学大学院修士課程芸術研究科修了。"rule"というキーワードのもと、システマチックなプロセスを組んだ平面作品を制作。おもな展示に、渡瀬愼也展-rule on rule-(galerie SOL/2006)、渡瀬愼也展-layer/rule-(コバヤシ画廊/2008)など。
http://shinyawatase.blogspot.com

ナカムラクニオ 賞:前池有香 「盲目だった人間が、はじめて見た光の世界は、色も、形も、光も、全てが意味をなさず境を失っていた。」

選評:ナカムラクニオ (6次元店主/映像ディレクター)
伊勢神宮のご神体である三種の神器の『鏡』か?
ちょうど今年は、20年に一度の式年遷宮の年。前池有香さんの作った巨大な鏡のような物体を見たとき、誰も見た事の無いというその神秘の鏡を思い浮かべました。
「アンデパンダン展」という言葉のイメージとは、まったく逆のシンプルなプレゼンテーション。「李禹煥のインスタレーションと絵画」を大学で研究していたと聞いてなるほどと、思いました。ミニマリズムは「哲学」だけど、もの派は「アニミズム」です。内藤礼の後に続く、「ガーリーなポストもの派」系作家として期待したい…。そんな気持ちから前池さんを推薦したいと思いました。
「ミニマリズムは死んでも、もの派は死なない」
そんな新しい世界観を拡張していってほしいと思います。

前池有香[まえいけ・ゆか]
1985年東京生まれ。女子美術大学大学院芸術表象修士課程修了。おもな受賞・活動に、「トート・アズ・キャンバス」入選(2006)、個展「RAINBOW―CULTURE SIGHT」(cifa、岡山/2013)など。
http://maeikeyuka.main.jp

中村政人 賞:桃源 「絵描き誕生」

選評:中村政人(アーティスト、3331統括ディレクター)
大切なのは自分のアイデンティティを純粋に受け止め、切実な表現に対峙すること。そして逸脱した価値を感じ取ること。例え形になっていなくとも、その可能性が読み取れる作品を重視した。桃源さんの作品を最初見たときは、展示方法が稚拙なため、目に飛び込んでくるという作品ではなかった。しかし読み込むに連れその表現の切実さに何度も足が止まる。この作家は、どのような精神状態で自分の脳を描いているのか?どんな生活をしているのか?怖い物見たさかもしれないが興味が沸いてくる。実は、私も脳腫瘍があり数年前に大手術をした。完治したわけではないので、頭のなかの腫瘍がいつも気になってしまう。自分が生物であり、なぜこのような有機的な形態をしているか?なぜ考える事ができ、様々なイメージが沸き立つのか?手術前後にそんな答えの出ない疑問をよく考えていたことを思い出す。桃源さんの強い衝動を抑えるように記述された紙片は、今後、抑制が効かなくとも溢れて出てしまう未知なる表現意欲を喚起していた。周りを気にせず描きたいことを徹底的に描き続けてほしい。

桃源[とうげん]
1971年福岡県生まれ。首から上の無い作品を描いていた作家が脳腫瘍患者と成り…。首から上のみの作品を描く作家に…。脳腫瘍患者が自分の脳腫瘍を描く。どうぞ、馬鹿と言って笑って下さい。それが、最高の賛辞です。

オーディエンス 賞:小野川直樹 「鶴の樹」

3331からのコメント
来場者の投票によるオーディエンス賞で第一位に輝いた作品「鶴の樹」。一見すると、白くうっすら雪が積もった樹木のように見えるこの作品ですが、よくみるとその雪のようにみえるものが全て、無数の極小の折り鶴で作られていることに気づきます。にぎやかな会場の中で、ひときわ静かに、見る人たちに新鮮な驚きを与えていました。
「日本に生まれたからには何か和を取り入れたものづくりをしたいと思い、折り鶴に行き着いた」と語る小野川さん。折り鶴は小野川さんにとって、作品の根底となるとても大事な要素であるとのこと。1羽1羽丁寧に折り上げられた折り鶴が、スカラシップ展ではどのような景色を見せてくれるのか、楽しみで仕方ありません。[3331 Arts Chiyoda]

小野川直樹[おのがわ・なおき]
1991年東京都生まれ。御茶ノ水美術専門学校卒。おもな受賞・活動に、「御茶ノ水美術専門学校 卒業制作展」優秀作品賞 (2012) 、「第23回紙わざ大賞展」新生紙パルプ商事賞 (2013) など。
http://naokionogawa.blogspot.jp