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3331シアター 講評会ゲストによる選評

本年より新設された映像部門「3331 シアター」では、事前審査により選ばれた10分以内の短編映像作品を、21点上映しました。
会期中に行われる公開講評会では、上映作品とともに、審査員からのコメント、作者によるプレゼンテーションを合わせて行いました。記念すべき第一回目となる2組の受賞作品の選評を掲載いたします。
2014年1月25日(土)(予定)からは、映像部門の受賞者2組と、展示部門の受賞者9組の計11組のスカラシップ受賞者が、3331 のメインギャラリーにて展覧会を行います。

<講評会実施日>
2013年10月13日(日) 13:00~17:00
ゲスト審査員/伊藤俊治さん、岡本美津子さん

伊藤俊治 賞:古跡哲平 「1981-2001」

選評:伊藤俊治(美術史家/東京藝大先端芸術表現科教授)
1981年から2001年までの厖大な自己写真を素材に繰り広げられる圧倒的なセルフ・スペクタクル、ありふれたイメージを繋げ、驚くべきシーンに塗り替えてゆくその集積・編集の方法は新たなアーカイブ・アートやセルフ・デザインとしても興味深い。 考えてみれば、この20年間は日本のメディア史において最も大きな変貌が起こった時代である。アナログからデジタルへといった表層的変化だけではなく、人間の記憶や経験、自我や他者といったものの意味や価値さえ大きく崩れていった。そうした時代のなかで変容する自己と自意識のダイナミックなメタモルフォーゼが、この作品では展開され、イメージと時間の潜在的な関係さえ現れでようとしている。 フレーミング、回転、クローズアップ、レイヤー変換、パースペクティブ、モルフォロジー....様々な技術や形式で進行し、連続する自己の画面は、人間の顔の不思議さや多様性とともに、見つめる私たちが、何気なく過ごしてきた厖大な時間が秘める本質的な意味を改めて気づかせてくれる。

古跡哲平[こせき・てっぺい]
1981年兵庫県生まれ、札幌市在住の映像作家。映像アート、ミュージックビデオ、モーショングラフィックス等の制作を行っている。おもな受賞・上映歴に「Lexus Hybrid Art 2013」(2013)、「イメージフォーラム・フェスティバル」(2013)、「DOTMOV FESTIVAL」(2013)など。
http://vimeo.com/user5214001

岡本美津子 賞:川口恵里 「底なしウィンナー」

選評:岡本美津子(プロデューサー)
「気持ちいい・・・」、という形にならない感覚を表現する―、 川口恵里さんの作品「底なしウィンナー」はそこに果敢にも挑んでいる作品だ。画面には、何かわからない肉片のような物体があり、ボールがぶつかるたびにプルプルふるえる。その緊張感の後、「休憩~」という掛け声とともにいきなり、牧場が広がり、口笛とともにたるんとした肉片と足の指全開の解放感あふれる映像になる。これはまさに我々が感じていた肉体的解放感、「気持ちいい」感覚の追体験なのではないか・・・ この形而上的な感覚の表現のためにアニメーションという手法は抜群の効果を発揮する。見る人は、アニメーションの画面に自らの肉体の、緊張と解放の経験を重ね合わせることができ、物体を既定しない抽象的なオブジェがイマジネーションを誘う。 この映像のデザイン力はまさに川口さんの固有の才能である。次にこの作家が表現するのはどういう感覚であり、我々はそれをどのように共有できるのであろうか、千代田芸術祭としてこの作家の次回作に期待したい。

川口恵里[かわぐち・えり]
1989年神奈川県生まれ。2013年、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修了。イラストレーター、アニメーション作家として、質感や空気感をたよりに、忘れたくない感覚を制作しています。
http://kawaguch1.tumblr.com