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3331アンデパンダン 講評会ゲストによる選評

3331アンデパンダン 講評会ゲストによる選評
展示部門「3331アンデパンダン」の実施は今年で5回目となります。
会期中に行われた講評会と会場での来場者投票により、約200点を越えるの応募の中から選ばれた9組の受賞作品の選評を掲載いたします。
受賞作家の今後の活躍にご期待ください。
<講評会実施日>
2014年8月23日(土) 13:00~18:00
ゲストA組/辛酸なめ子さん、平方正昭さん
ゲストB組/福住廉さん、藤原えりみさん
2014年8月24日(日) 13:00~18:00
ゲストA組/飯沢耕太郎さん、中村政人
ゲストB組/鴻池朋子さん、鈴木一成さん

<スカラシップ受賞者展>
展示部門・映像部門・インタラクション部門の受賞者16組による、スカラシップ受賞者展を開催。
会期:2015年1月10日(土)~2015年1月25日(日)
時間:12:00-19:00(最終入場18:30まで)
会場:3331 Arts Chiyoda 1F メインギャラリー
http://www.3331.jp/schedule/002685.html

飯沢耕太郎 賞:平松典己「来るべきなにかのために」

選評:飯沢耕太郎(写真評論家、きのこ文学研究家)
A4判の紙の大きさをそろえて、ざっくりとしたタッチで「かたち」を描いていく。その中には山とか、コップとか、ショートホープの煙草の箱とか、日常的な事物も混じっていて、水彩の淡い滲みを活かしたモノクロームのたたずまいが、どこか「私写真」的な雰囲気を漂わせているのが興味深い。そういえば中平卓馬に『来たるべき言葉のために』という名作があった。中平が普段吸っているショートホープの箱を引用していることも含めて、この作品全体が中平へのオマージュなのかもしれないと思いはじめた。軽やかなイメージの飛躍が、なかなか魅力的だ。

平松典己[ひらまつ・てんき]
1986年和歌山生まれ。日本大学芸術学部デザイン学科卒業。絵画制作を始める。主な受賞・展示に、『Geisai#19』吉竹美香賞(2013) 、Hidari Zingaro、Kaikai Zingaroにて「平松典己個展」(2013)など。
http://tenkihiramatsu.com

鴻池朋子 賞:かみむらみどり「内省刺繍ー54の後悔」

選評:鴻池朋子(現代美術家)
どの作品も何処かのアートっぽい美術っぽい芸術っぽいスタイルにする方々が多い中で、単純にものをつくる貪欲な集中力が出ていたことは他の人にないエネルギーを持っていると思いました。まったく洗練されていないことも素敵だと思いました。作品とはその人がどのような言葉をコンセプトに、どのような形や素材を持って来て表面をつくりあげてしても、まったく関係なく重要なその人の芯のようなものが見えてしまう。と、いうむちゃくちゃなルールが成立します。その芯の存在に本人が気付くかどうかという問題は、生きていきながら、ものをつくることで次第に実感できることだと思います。また何かの賞を取っても、その賞は一切将来に関係のないことも事実です。ですから選考に落ちた人にも同様のことがいえます。矛盾していますが、矛盾しているのが人間であり、芸術は人間の唯一のエレメントです。

かみむらみどり
1960年三重県生まれ。1983年金城学院大学文学部社会学科卒業。「心の傷」、「内省」をテーマに家事の合間にリビングの片隅で刺繍作品などを制作。

辛酸なめ子 賞:増田ぴろよ「消滅のキルト」

選評:辛酸なめ子(漫画家、コラムニスト)
遠目に見ると、おしゃれでどこかエレガントな模様ですが、近づいて凝視するとモチーフが男性器だったり性器だったり......。でも言われるまで気付かない、ロールシャッハテストのように、鑑賞者の性的リテラシーを試すような作品です。また、サブリミナル的に人間の本能を呼び覚ましてくれます。身につけることで、ふらふらと異性が吸い寄せられそうな......本当の意味でのモテ服になり得ます。一般的に花柄が女性器を象徴しているとか、キノコは男性器とか、世の中は安易な暗喩に満ちています。増田ぴろよさんの「消滅のキルト」は、対照的に、精緻な作業によって直接的なモノを幻想的なアートに昇華させました。そんな上級者向けの性表現に可能性を感じずにはいられません。

増田ぴろよ[ますだ・ぴろよ]
埼玉県出身。保育園を経営する女系家族に育つ。男性への愛憎を糧に、女の業と機能不全家族をテーマに制作。主な受賞に、TOKYO MX『5時に夢中!』夕刊ベスト8コーナー1位(2013)、『美術手帖presentsシブカル杯』最終選考(2014)など。
http://masudapiroyo.com

鈴木一成 賞:大津芳美「dialogue」

選評:鈴木一成(Gallery OUT of PLACE ディレクター、フォトグラファー)
会場の中で唯一奥行きの広がりを意識した展示をしていた大津芳美さん。彼女の作品は着ることによって洋服に刻まれる経験や時間の襞を再び布に写し取るという行程で制作されている。洋服から人の経験や時間を写し取るという手法自体にはオリジナルなコンセプトは感じられないが、洋服と言う布に刻まれていく立体的な襞を、敢えてまた布に平面的に写し取るという所作や、サインペンのインクによる美しい発色と滲んだ象形には目をひくものがあった。写し取られた絵という意味合いに於いては写真的解釈も可能であり、作品の特性を生かせば展示スタイルを含め、今後更なる展開が期待できると感じた。

大津芳美[おおつ・よしみ]
1983年東京生まれ。多摩美術大学生産デザイン学科テキスタイル専攻修了。布を媒体とし滲みやフロッタージュの表現を使い制作をしている。主な活動に、『KonseiⅡ』サンパウロ (2010)、『AOBA+ART』横浜 (2013.2014)など。
http://002443.tumblr.com

平方正昭 賞:木村りべか「やみいち」

選評:平方正昭(東京都美術館 学芸員)
スカラシップの選出ですが、展示されていた作品の中には表現したいことを作品にするという点でスムーズにそれができている人も少なくありませんでしたが、多様な表現が巷にあふれている今日、撰者のひとりとして一点選ぶとすると、完成度よりも今後の可能性が楽しみなものに目が行ってしまいます。木村りべかさんの作品は、会場全体の中でひときわ異質で剣呑な雰囲気を漂わせていました。展示場所も特異なコーナーでしたが、関わり合いになりたくない、できることなら足早に立ち去りたいと思わせるような濃い空気が立ち込めていました。今はまだ作者も観客もネタを面白がっているところで留まっていますが、そのネタの背景や作品の作り方、出し方など、今後どう展開されていくかが気になって仕方なく、その点で選ばせていただきました。次の作品も見せてほしいし、また、見るのが怖い(笑)とも思う作品でした。期待しています。

木村りべか[きむら・りべか]
1987年群馬県生まれ。武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科・油絵学科卒業。「たのしい」ものことをつくるために、写真・インスタレーション・パフォーマンス等を用いて制作を行う。主な受賞に、『キヤノン写真新世紀』佳作(2011)など。
http://ribekakimura.web.fc2.com

藤原えりみ 賞:小笠原圭吾「POP」

選評:藤原えりみ(美術ジャーナリスト)
多種多様な作品が集結した趣の千代田芸術祭。次の展開を見てみたい作品が多く、1点に絞り込むのは大変だった。小笠原作品を選んだ理由は、実物そっくりに作り込んだ焼き物のリンゴの完成度が高いだけでなく、作品が社会に対して開かれていること、そして、それら二つの要素を作品名にあるように「POP」に仕立て上げる軽やかな創作姿勢に惹かれたからだ。リンゴの拡散を通して「見えないイメージを形成する」という点、そしてリンゴの写真を撮影し作者にフィードバックするしないに関してはリンゴを持ち帰った観客の善意に委ねるという点において、リー・ミンウェイの「Moving Garden」(観客にガーベラの花を持ち帰ってもらい、帰宅途中で見知らぬ人に手渡してもらうという参加型他作品)と相通じるものがある。「私」という「見えない個」を策定して創作に励むのも良いが、どうせ見えないものを相手にするのなら、広大な「世界」というものと向き合うのも悪くない。リンゴの描き出す「絵」が日本地図の形に収束されてしまってはつまらない。どうか世界の地図へと拡散していきますように。

小笠原圭吾[おがさわら・けいご]
1985年静岡県生まれ。東京造形大学彫刻専攻領域卒業。陶磁器を主な素材とし、つながりをテーマに制作。主な受賞歴に、『TAMA ART COMPETITION 2013』 3331賞(2013)、『SICF15』スパイラル奨励賞(2014)など。
http://pop-dot-project.com

福住廉 賞:いぬいかずと「SHAVE_PARIS」

選評:福住廉(美術評論家)
「美術」は、サッカーのように得点を競い合うスポーツではないし、将棋のように駒を奪い合うゲームでもありません。つまり観客にも共有できる明確なルールがないまま、観客に自分の作品を提示しなければならない。きわめて孤独な作業です。ただ、裏返して言えば、そのルールを自分の内側に設定できれば、孤独に耐えながらも自分を前進させていくことができるはずです。イヌイくんの《SHAVE》を選んだのは、彼が心の内側に自分なりのルールを設定することで、試行錯誤を繰り返しながら、少しずつ前進していることが作品から伺えたからです。描写されているのは、街の風景や動植物など。絵画の主題としてはあまりにも中庸ですが、よく見ると色彩と線がひじょうにていねいに構成されていることがわかります。対象を観察する視線と、対象を色彩と線に置き換える手の動きのあんばい。彼は、それをそれぞれの作品で試しているのです。公開講評の場で彼が漏らした煮え切らない思いは、その試行錯誤が依然として渦中にあることの告白でした。けれども、そうでなければ、どうして絵画を描くことができるのでしょうか。

いぬいかずと
1977年群馬県生まれ。主にカラーボールペン、クレヨンを使用。最近は野菜など有機的でぶかっこうなカタチに興味があります。主な受賞に、Lenajapon『あなたのさくら色』優秀賞(2009)、イラストレーション『第174回THE CHOICE』準入選(2010)など。
http://inuikazuto.tumblr.com

中村政人 賞:椋本真理子「flower bed[series]」

選評:中村政人(アーティスト、3331統括ディレクター)
Google Earthの地球は、写真による平面的な空間の連続が擬似的な3次元空間として現れるが、椋本さんの場合、どこを切り取ってもミニマルな平面が連続するリアルな3次元空間となる。ネオミニマリズムとでも言うべきその表現は、一見ストイックだが豊穣な情感を密度高く喚起する。それは、仮想の現実から拡張する現実へ時代が向かうことをほくそ笑むかのように、純化する現実を構築している。

椋本真理子[むくもと・まりこ]
1988年神奈川県生まれ。武蔵野美術大学修士課程彫刻コース修了。主にFRPを使用した彫刻作品を発表している。主な受賞に、CCC展覧会企画公募『New Creators Competition 2015』入賞(2014) など。
http://www.marikomukumoto.com

オーディエンス 賞:久野彩子「○」

3331 千代田芸術祭 2014 事務局 からのコメント
久野さんの作品は、金属パーツの集積がもつ物質感と独創性によって、多くの観る者の足を止め、「オーディエンス賞」を獲得しました。ロストワックスという精密鋳造技法で製造されたパーツの集積によって生み出された表層は、その密度と奥行きにより希有な魅力を放っていました。作者が生まれ育った東京の都市空間をヒントにしているとのことですが、下図などはなく、偶然性を活かす制作方法をとっているそうです。素材に対するきわめて豊饒な感覚と、都市という外部への洞察が両輪となり、自らの原風景を再構築した物体は、見事に「作品」へと昇華されています。

久野彩子[くの・あやこ]
1983年東京都生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科工芸専攻(鋳金)修了。鋳造技法を用いて作品を制作している。主な受賞に、『SICF15』オーディエンス賞(2014)、『TAGBOAT ART FES 2014』準グランプリ、『六花ファイル第5期』入選(2014)など。
http://www.ayakokuno.com